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「リノベーション」とは正に…

〜富岡製糸場(群馬県)〜

皆さまこんにちは。Theatre代表の吉田です。
今回はいつもの物件情報の紹介やナレッジの共有とは異なり、先日ご縁があって訪問した富岡製糸場(群馬県)についてのお話しできればと思いこの記事を書いています。

富岡製糸場について話題になった時、直感で行きたいと思った理由は現地でよくわかりました。現地ではそんな自分の感覚とも向き合う時間になりました。

主に「リノベーション」や「デザイン」という切り口でお話ししたいと思います。
よろしければぜひ最後までご覧ください。

*「富岡製糸場」は、国宝としては「旧富岡製糸場」という名称ですが、今回の記事中では「富岡製糸場」でお話しさせていただきます。

富岡製糸場(群馬県富岡市)

そもそも世界遺産であり、国宝ですので、ご存じの方も多いでしょう。私より詳しい方もたくさんいると思いますので、富岡製糸場が歴史上どういう場所だったのかを、ここで敢えて深くお話しすることはしません。

上の写真はよく教科書でも出てくる建物ですね。
ちなみに富岡製糸場は5.3haの敷地内に100を超える建造物・工作物があるそうです。
一度で全てを覚えきれませんが、ガイドの方に敷地内のメインの建物を案内してもらいました。
煉瓦の積み方や使われた部材から、日々技術が進化していく時代の流れも感じとることもできます。

そして今回ここにきた最大の目的である建物の中に入れました。
ガイドツアーにも実は含まれていなかった建物です。

富岡製糸場 「西置繭所」

この建物です。「西置繭所(にしおきまゆじょ)」。

1872年築。150年以上前に建てられ、国宝に指定されている3つの建物のうちの1つです(残り2つは操糸所と東置繭所)。長さは約104m、高さ約15m、木骨煉瓦造りで屋根には瓦が使用されています。

美しい!(私は直線やシンメトリーが好きです)

115年間続いた操業が1987年に停止し、富岡市に寄贈された後、後世へと語り継ぐべき重要な産業遺産として、保存、活用計画が進んでいました。その中で操業停止後非公開とされていた、まずこの西置繭所から2015年に改修工事が始まり、2020年に完了・公開となりました。
今建物の内部はこうなっています。

外観からは想像できない空間が広がっています。
1階部分はギャラリー、ホワイエ、ホールと大きく3つの空間に分かれており、ここはホール部分。入り口がある南側以外は天井、壁もガラスで囲まれています。

こちらはホール手前のホワイエ。

何も知らないとただカッコイイだけで片付けてしまいそうですが、解説文を読みながら、細かい部分をよく見てみるとより理解が深まります。

耐震補強のための鉄骨は、径を小さいものが使用されていて、よくある無骨で存在感のある補強材とは異なった印象を与えてくれるとのこと。確かにほとんど気になりません。
補強された天井と壁を囲むガラスは、耐震補強の一部を担うことと同時に、空調使用による既存空間温湿度変化の軽減、また空調の風による壁面、天井面の過乾燥の防止の機能もあるそうです。
漆喰の天井が剥落してしまった時には、ガラスが受け止めてくれます。実際、天井部分に白く粉っぽいものが付着している箇所がいくつかありました。

またガラス越しに見る壁面や天井面は、150年の歴史を伝える鑑賞物としてより意識されます。
敢えて残されている壁や柱のキズ、メモ書きなどに目を凝らしてしまいます。

そしてガラス越しの壁面を見て感じたのは、私自身を含め、ガラスへの映り込みが非常に少ないということ。内装の色や照明を工夫することで、そこにガラスがあるが、あまりガラスがあると感じないような設計がなされています。

こちらは2階の様子。
2階は入れないエリアもあるので一部の写真です。建築部材を中心とした展示エリアになっています。

1階とは求められる耐震性能が異なるため、1階のようなガラスボックスはなく、より当時のままの姿が残されていました。天井は仕上げられておらず、小屋組が現しというのも大きな特徴の一つです。
床材は最近でもカフェの内装などで使用される足場板のような風合いで、1枚あたりの幅が広く、雰囲気があります。
空間の仕上がりが1階と2階で対照的なのも、この建物を楽しめるポイントですね。

ヴェランダにもこのように出ることができます。
煉瓦の壁に木製の柱、広がる景色。操業当時はどういう景色だったのか、想像力を刺激される場所です。

一部写真撮影が不可のエリアもあり、この場では共有できませんが、他にも素敵な空間がありました。
特に1階のギャラリーは操業当時実際に使用されていた工具や道具類、製糸の工程を説明したイラストも例のガラスボックスの中に展示されています。
ちなみに冒頭でご紹介したホール部分は、貸出(有料)もしています。結婚式の会場として利用されたこともあるそうです。
また西置繭所以外にも、国宝や重要文化財に指定されている建物が複数あります。まだ実は来たことがないという方、まずは一度、直接見ていただくことをおすすめします。

訪問を振り返って

素晴らしいものを見させてもらいました。築150年の国宝の外観の雰囲気はそのままに、耐震性能を始めとした安全性を満たし、通年で快適に過ごせる環境を作り、当時の内装はガラスボックスの中から鑑賞する。しかも立ち位置によっては、ガラスの存在を忘れてしまうような光や色の調節が行われている。機能をアップデートしつつもそこには当時への想いを馳せる空間があります。リノベーションとは正にこのことと感じずにはいられません。機能面・技術面の工夫はあまり目立たず(もちろんプロの方はわかるでしょうが)、主役の魅力を最大限に伝え続けるためにデザインされた空間の中にいるという感じです。

技術的な部分に明るくなければ、ただカッコイイ!素敵!というリアクションしかないかもしれません。もちろんそれはデザインの力ですので、素晴らしいことです。
ただそれが何年、何十年も同じままでいる時、変わらないでいる時に実はこのような技術があったことに気づく。万一災害が起きてしまった時に、実はこの建物はこういう機能が備わっていたんだと知る。主役を主役のまま次の世代、新しい時代へ繋げるために支える。このリノベーションはそんな美学も感じさせるものでした。
きっとこの美学に私が反応し、現地へ足が向かっていったのではないかと思います。

仕事柄「リノベーション」という言葉に度々触れますが、しばしば内外装の表面的なデザインや、一時的な見映えによりフォーカスされていて、機能や環境がやや後回しにされている物件も見かけます。
今回は国宝という特殊な建物ですので、単純な比較にはならないかもしれませんが、個人的にリノベーションという言葉が非常に腹に落ちました。

建築業界での評価も高く、2022年日本建築学会賞も受賞されています。

そして冒頭のご縁があってと申し上げたのは、実はこの富岡製糸場のプロジェクトの主要メンバーの一人で、日本建築学会賞の受賞者でもある齋賀英二郎さんが、弊社オフィスのお隣りにいらっしゃいます!
八木香奈弥さんと齋賀英二郎さんが経営されているwyes architects(ワイエスアーキテクツ)さんは、文化財の保存や活用に強みをお持ちで、加えて住宅の設計や、家具・インテリアのデザインに関するお仕事もされています。面白そうなプロジェクトの話しを聞くたびに、質問攻めしてしまうのですが、お二人はいつも穏やかで丁寧に答えてくださいます。弊社オフィスにお越しいただければ、お会いできるかもしれません。

今年は東京をもっと出て新しいものに触れる機会を増やしたいと思います。
不定期ではありますが、皆さんとシェアしたいと思った場所やモノ、コトについてこの場でお話しをしたいと考えておりますので、またぜひお付き合いくださいませ。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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