
建築設計事務所「wyes architects(ワイエスアーキテクツ)」の齋賀さんと八木さんとの散歩シリーズ、第2回は大田区の池上本門寺を歩きました。
日蓮宗の大本山で、創建は1282年。約7万坪の広大な境内は階段や坂が多く、起伏に富み、高台に築かれた寺院であることを実感します。徳川家や加藤清正の外護を得て形成された大伽藍には、国内でも最大級の瓦屋根を有する大堂(だいどう)や、国指定の重要文化財でもある五重塔・多宝塔など、多種多様な建築物があります。
さまざまな場所で足を止めてお話しをしましたが、今回は、戦火を免れ建設当時の趣きを残す総門と、重要文化財である五重塔・多宝塔でのやりとりの様子をご紹介します。大きくて迫力のある大堂や仁王門とは異なる重厚な存在感は、会話を進める中でより際立ってきます。
数々の文化財、歴史的な建築物にお仕事として関わっているお二人の視点から、池上本門寺の新たな魅力に触れられる内容となっています。ぜひ最後までご覧いただけると嬉しいです。
wyes architectsさんのご紹介と前回の記事(碑文谷散歩)は以下のリンクよりご覧くださいませ
https://theatre-inc.com/himonya_column_part1/
目次
池上本門寺〜総門〜

Theatre 吉田(以下「T」):池上本門寺に到着しました。先ほどから目にする日蓮宗の書体がストリートアート感があってかっこいいなと思い、つい見入ってしまいました。「髭題目(ひげだいもく)」というんですね。知りませんでした。日蓮宗の大本山、入口の門です。
wyes architects 齋賀・八木(以下「w」):総門ですね。この前の円融寺の門と比べるとより大きいですね。これは高麗門(こうらいもん)という形式です。2本の大きな柱を冠木(かぶき)でつないで、後ろの2本柱で支える形式です。断面が真四角じゃなくて、長方形の扁平型の柱を使います。

T:この部分のことですね。
w:はい、この形のことを五平(ごひら)といいます。柱この部分、継いでますね。この継手、とても大きいです。わかりますか。ここでこうやって柱の足元を継いでるんですよ。これは金輪継(かなわつぎ)という継手ですね。噛み合わせて、栓をして、強く固めるというものです。一方であちらは蟻継(ありつぎ)という継手です。しかし大きいですね、この門。しかも黒。あまりベタベタ触ってると怒られそうですかね。笑

T:黒い門は他にもありますか?
w:黒い門といえば上野の寛永寺の旧本坊表門(黒門)でしょうか。ないわけではないけど珍しいかもしれないですね。

池上本門寺〜五重塔(重要文化財)〜

w:これが重要文化財、池上本門寺の五重塔です。 渋いですね。やはりかっこいいですね。またこの塗装がマットな赤というのもかっこいいです。ピカピカの感じじゃないというのが。そして風格がありますね。
T:普通に車が通るとこに建っていますが、雰囲気が違いますね。
w:早速ですが初重(しょじゅう)。この屋根の垂木(たるき※屋根板を支える角材)が平行に揃っているじゃないですか、方向が。
これは平行垂木(へいこうたるき)といいます。これが上にいくと二重以降はわあっと広がっていくじゃないですか。あれは扇垂木(おうぎたるき)といいます。

T:おお。それはデザインですか。
w:簡単に言ったらそういうことですね。寺院建築は和様と禅宗様といって、大きく分けると、2つのスタイルがあるんです。和様というのは、より和風の要素が強い表現。禅宗様というのは、中国の要素がより大きいと言われるのですが、これは初重だけ和様で、二重以降が禅宗様と呼ばれるスタイルになっていて、折衷されているのが特徴です。
w:細かくいうと、この肘木(ひじき※柱の上方にある上からの重みを支える横木)の作り方とか、例えば角の垂木があるじゃないですか、尾垂木。形が違うの見えますか?二重より上は先が尖っているじゃないですか。斜めにいってる。
T:はい。斜めに出ています。
w:四角でしょ、初重は。それが上にいくと、3本出てて、先がヒュッとすぼまってるじゃないですか。ああいう角の取り方、カーブの付け方とかが、ちょっとずつ違うんですよ。おそらくバランスを考えているんだと思いますが。

T:初歩的な質問ですが、五重塔とは何ですか、、?
w:結構難しいこと聞きますね。笑
本来は、仏舎利(ぶっしゃり*お釈迦様の骨)とかを収めるためのものなんですよ。
T:お墓ということですか?
w:お釈迦さんのね。塔は卒塔婆(そとうば)とも言うんですけど、卒塔婆っていうのはストゥーパのなまった形なんですよね。
お釈迦様が亡くなった時に骨をみんなで分け合ったらしいんですけど、それを納めるっていうのが本来のストゥーパ。その後中国、韓国、日本に伝わる中で塔の形に変わっていくんです。日本では、五重塔だけじゃなくて、三重とか七重もあります。

w:例えば寄進した人がすごく大事にしてきてる仏様がいた場合に、そういう仏様を納めるということもあります。ここに関しては徳川秀忠が寄進していますが、要するに個人的というか、皆がお参りしてご利益をいただくというご本尊とはちょっと違うんですよね。
五重塔は中を公開していないところの方が多いですし、ここには賽銭箱もないので、あまり参拝する対象ではなかったのかもしれません。
T:確かにあまり中に入るイメージがないですね。

w:そうですね。ちなみにここは確か内部に彩色の絵が描いてあるようですが、要するに自分が死んだ時や自分の大事な人が亡くなった時、その人が浄土に召される時に、いいところに行けますようにみたいな気持ちもあるのではないかと思います。
T:中には階段があるんですか?
w:階段はないです。登れるはしごみたいなのがある塔もあるけど、ここはなかったような記憶があります。塔の中には心柱(しんばしら)が初重の上、天井の上からあるそうです。

T:干支も描かれていますね。
w:そうですね。あの青い部分は蟇股(かえるまた・蛙股)といいますが、そこに干支の動物を描いてるんですね。こういうとこに干支描くのは割とよくあります。五重塔でも見かけますね。
それにしてもこの五重塔はかっこいいですね。プロポーションが非常に良いです。

池上本門寺〜多宝塔(重要文化財)〜

w:多宝塔、これも重要文化財です。1830年建立なので重要文化財としては新しいほうですね。宗祖550御遠忌とのこと、日蓮聖人が眠っている場所かと思います。近世の後半の重要文化財はまだあまりないので、注目の建物だったんでしょうね。
T:建物下に蓮の花があって、色が今までの他の建物と比べても圧倒的に鮮やかな印象です。形や色遣いが一瞬中国のような雰囲気も感じました。
w:確かに日本だと円形は珍しいですよね。またこの彩色というのも珍しいかもしれません。五重塔も赤かったですが。ここにも確か中には彩色の絵があったと思います。あと凄いですねあの隅(屋根の軒裏部分)、尾垂木の龍が3段とかになっていて、もの凄い数です。

T:大堂や五重塔にも龍が描かれていましたが、ここでの数はそれらの比ではないですね。ちなみに下の丸い部分も木でしょうか。
w:木で下地を作って仕上げは漆喰かなと思います。すごく立派な建物ですね。正しい表現かはわかりませんが、どこか大きな仏具のようにも見えます。かっこいいです。

w:多宝塔のような重要文化財の木造建物は、火災に弱いので、周辺に消火設備を付けるんです。水道と直結していると、地震の時にもしかすると水道が切れちゃったりする可能性がある。だから独自の水源を用意しておくんです。先ほど貯水槽がありましたが、ここにはその貯水槽から引いてきている消火栓があります。こうして建物を火災から守っています。
T:万一時の備えですね。お参りに時になかなか視線が向かないところですが、大切な設備です。

T:個人的には今日見てきた建物の中で、一番多宝塔がインパクトがある建物でした。
w:池上本門寺は建物のバリエーションが豊富です。色々な時代の建物があるのが面白いですね。近代、近世、戦後のものもあります。バラバラではないけれど、キャラクターの違う建築が複数あるというのは、珍しいかもしれません。
池上本門寺散歩振り返り
総門こそ多くの人が通るものの、五重塔はメインの通りから少し離れたお墓が集まる場所の中にあり、多宝塔に至っては大堂のある場所からは見えないため、事前情報がないと存在に気づかずに帰ってしまう人も多いかもしれません。しかしこれらの建物は築およそ200年〜400年。大堂や仁王門の迫力とは異なる、静かで重厚な空気が漂います。
また文化財ではありませんが、齋賀さんが大堂の脇にある倉庫と思われる建物に注目されたのも印象的でした。屋根瓦の葺き方を変え、サブ的な格を意識しつつも、雨樋をお寺の雰囲気に合わせたり、角の面取りをするなど、簡素になり過ぎず、丁寧に工夫を凝らしているとのことでした。
総門を抜けた先の96段の石段(此経難持坂)には、多くの補修箇所があります。徳川幕府ができてまだ数年という頃に、加藤清正が寄進したとのことですが、そこから400年以上、大切に維持管理されてきた様子も窺い知ることができます。
池上本門寺の「静かな主役たち」が放つ美しさと逞しさを感じる、貴重な機会となりました。
Information
日蓮宗大本山 池上本門寺
住所:東京都大田区池上1-1-1
HP:https://honmonji.jp/
フォトギャラリー

題目塔(だいもくとう)

総門

此経難持坂(しきょうなんじざか)

仁王門

散策中

大堂

大堂脇の建物前にて

大堂その2

大堂その3

経蔵・清正公堂

経蔵前にて

多宝塔へ

五重塔前にて

此経難持坂(しきょうなんじざか)





